幻の短編
気ぜわしい休日の谷間、やっとひとりの時間を見つけ、「オール読物」五月号を取り出した。ページをめくる。お目当ては藤澤周平の短編。
「オール読物」は、先月号から“発掘!藤沢周平”の企画で、藤澤周平の無名時代の作品を掲載している。今回は第二弾。(4月号は、のんきにかまえてて買いそびれ。藤澤人気のすごさ。あっという間に売り切れてたんだ~)
「無用の隠密」と「残照十五里ヶ原」の二編を、一気に読む。昭和30年代後半(?)に、小雑誌に掲載された作品。私が今まで読んだ作品を“円熟の藤澤”とするなら、これらは“発展途上の藤沢”・・か(な~んて、受け売り・・)。ブレイク(!)する前の若き時代、書いては売り込み、没にされては又書く~~をくり返していた頃、日の目を見なかった作品は、行李いっぱいあったらしい。
二編とも、私には、単純に、おもしろかった。「無用・・・」は、冒頭の書き出しから緊迫感があって、たちまち、話に引き込まれた。情景の描写、会話の端々に、その時代の有様が垣間見られ、作者の豊富な時代知識が分かる。また、「残照・・・」の方は、戦国時代の庄内支配の争いを描いているのだが、正確な史実にもとづいていて、短編歴史小説としても濃い中味になっている。
読み終わって、本を閉じようとした時、私は、いつもの読後感と違う、何か足りない物を感じた。・・・それは、余韻。藤澤周平の作品を読んだ後なら、必ず、胸の奥から湧いてくるジーンとするもの。いつまでも、私に、ページを開いたままにさせるもの・・・。その、余韻をこれらからは味わえなかった。
でも、今回、初期の作品を読むことができて良かった。改めて“円熟の藤澤”の魅力を再確認できた。行李をいっぱいにするほどの、多くの作品を書き続け、書き続け、彼は後の自身の作風を作り上げてきたのだろう。
無駄がなく簡潔でいて、リズムのある文体。状況が目に浮かぶほどに詳細で正確な描写。読み終わったあとに感じる共鳴感・・。藤澤の作品のこれらの魅力は、歴史への深い造詣、を核に、若き日の努力と苦脳の積み重ねで、磨かれて、作られたに違いない。
ダイヤの鉱石をさがすようなワクワク気分で、「オール読物」6月号の、第三弾も楽しみに待っている。
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