たった一人の蔵元
夫が久しぶりに、近隣の市に住む、I朗さんを訪ねて行った。
I朗さんは、夫の遠縁という間柄だが、年齢が同じということもあり、若い頃から交流がある。
I朗さんの家は、安政の時代から続く、代々の醸造屋。酒造りをしている。
彼で、4代目だという。(写真、家屋も昔の趣を残して)
先代までは、杜氏さんもいて、大々的に沢山の石数を醸造していたときく。時代の流れで、だんだんと杜氏さん集めも難しくなったようで、いつからかI朗さんが一人で酒造りをするようになった。
彼は大学の醸造科で、酒造りを専門に学んだ杜氏でもある。
『たった一人で酒造り』・・何年か前、地元のテレビのワイドショーで、彼のユニークな酒造りが紹介された。たしかに、I朗さん曰く、「商業ペースの蔵としては、全国一小さい規模です」かもしれない。
彼は、便利なオートメーション機械など使わぬ、昔ながらの道具と手法で酒造りをしている。その工程から考えて、素人の私にも、その困難さは何となく分かる。酒造りは、力仕事も多いうえ、原料の麹は生き物だ。手順も微妙だし、天気や気温にも左右される。工程のタイミングを狂わせてはいけない。一人でこなすとなると、それこそ、昼夜を問わぬ作業になることもあるだろう。
そこで、I朗さんは、長年かけて、いろんな工夫を考えた。テレビでも紹介されたが、酒蔵の中には、彼が考案した仕掛け、手作りの道具が数多くある。
夫は、今日、実際にその道具などを目にしたのだと思うが、撮った写真ではよく分からない。暗すぎたか・・。
酒蔵の中は、目下、新酒造りの作業の大詰め。7月には出来上がる。
今年は、例年より少なく、2樽しか造っていないらしい。
醸造石数も少ないうえ、品評会で入賞するほど味も折り紙つき。そのため、新酒には毎年、予約が殺到している。親戚といえど、前もって予約しておかないと、手に入らない。
彼の造る酒の味が良いといわれる理由を、お酒に詳しくない私だが、ちょっと考えてみた。
まず、I朗さんの、杜氏としてのポリシーにあると思う。彼は『自分は“酒造り”をしているのではなく、酒が間違った方向に進みそうな時に、導いて、酒の“手伝い”をしてやるだけ』と言う。・・・その、“自然のまま”を大切にするという製法が、コクがあると言われる味を生むのだろうか。
さらには、原料へのこだわりか。山田錦と、松山三井という酒米を選んで使っているという。それぞれの酒米には、独特の香りと味があるのだと言っていた。配合などいろいろ難しいのだろう。あとは企業秘密ということにして。
そして、そして、忘れてならないのは、仕込み水。地元は“水の町”といわれる名水の里。その地のゆたかな湧き水を使っている。
I朗さん宅のすぐ隣に、名水50選のひとつに選ばれた湧き水がある。弘法大師ゆかりの、時代を超えて湧き出る泉である。おいしい水こそ、おいしい酒を造るための、隠れた主役であろう。
さて、今回、夫がI朗さんを訪ねたのは、お使い物にするお酒を受け取るためだ。今までも何度か、お酒好きの方に差し上げたことがあって、そのたびに「おいしい」との評判を得ていた。舌の肥えた愛飲家からも絶賛されたことは、嬉しかった。
I朗さんの残り少ない在庫から、夫は2種、2本づつわけてもらった。そして、新酒の予約も忘れずにして帰ったという。
そして、我が家には、お土産に、酒粕をもらった。I朗さんは「この酒粕は、吟醸のやけん、旨いんぞい。」と言ったという。
アルコールはまったくだめな夫、「甘酒にして飲んでみるか?」・・・若い頃は奈良漬けを食べただけで顔を紅くしたほどなのに、大丈夫かしら。甘酒といえど、アルコール度はかなり強いよ~。
まずは、“体ならし”から。・・・・とりあえず、みそ汁に、酒粕を少しづつ混ぜていただくことから始めましょう。





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